独学せんせーのためになる日々

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勉強が苦手な人向けに英語などの学習方法や勉強のコツを紹介するブログです。

【個別指導塾の思い出】男性恐怖症の女子中学生との出会い

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こんばんは、独学せんせーです。
 


今日は僕が個別指導塾の講師時代、一番思い出に残った男性恐怖症の生徒との思い出を紹介します。僕が今教育に関する情報を発信しているのは、きっとこの生徒との出会いがあったからだと思います。
 

 

完全に自己満足の記事ですが、思い出話にお付き合いください。 

 

 

 

男性恐怖症の生徒との出会い


出会いは僕が大学3年生のころでした。ある日教室長から、授業終わりに生徒のことで相談があると呼び出されました。いつになく真剣な表情の教室長から「担当してほしい生徒がいる。」と告げられます。

 

その生徒は、中学1年生の女子生徒で男性恐怖症とのことでした。

 

僕がバイトしていた塾に週2回通っていて、片方の曜日には女性の先生が出勤していました。しかし、もう片方の曜日にはたまたま女性の先生がおらず、教室長は比較的女の子の授業を持つことが多い僕を担当に決めたようです。

 

要は消去法で僕が選ばれたようです。

 

親御さんの「できるなら男性に慣れさせてあげたい」という思いも背景にあったようです。

 

 それまでも大人しい生徒は何人も担当したことがあり、打ち解けることができました。今回も苦労はするけどきっとうまくいくだろうと思い、快諾しました

 

初めての授業

 

教室長から話があった次の週、早速授業を担当します。少し緊張しつつ、記念すべき初授業へ。(普段は緊張することなんて、まずありません。)
 


見た目は、落ち着いた大人しそうな印象です。
ある意味予想通りです。
 

 

「よろしくお願いします。」と一言かけますが、この段階でこれまでの生徒たちとは明らかに異なる点に気づきます。僕を見る目が完全に怯えていたのです。
 


これまで担当してきた話すのが苦手な生徒たちは、表情が硬く目が合わないことが何度もありました。
 


しかし、ここまであからさまに怖がられたのは初めてでした。

 


それでも彼女は「話を聞くときは目を見ないと失礼」と思ったのか、頑張ってこちらを見ようとしてくれます。
 


その後、さぐりさぐり表情を伺いつつ授業を進めていこうとしますが、やはり授業の最後まで怯えた表情のままでした。
 


こちらが解説しているときは警戒した表情をするものの、他の生徒と同じように話を聞いてはくれました。しかし、問いかけを行うと、ぎょっとしたような表情を見せ、固まってしまいます。
 


そんなこんなで手ごたえは全くなく、初授業は終わりました。
 
 
初授業を終えて、 「これはかなり手ごわい。打ち解けるまでには確実に長期戦になるだろう。」と思った反面、

 

彼女のけなげな態度を見てなんとしても男性恐怖症を克服させてあげようと決心しました。俄然やる気がわいてきました。

 

 

仲良くなるために

 

初授業で想像以上の拒絶反応を感じたため、焦って急に距離を詰めすぎてはいけないと感じました。
 


おそらく、彼女は僕が隣にいるだけでも苦痛だったでしょう。僕は大学生とはいえ、彼女から見たら年の離れた大人の男性です。
 


まずは、通常の生徒よりも距離を取り、精神的な負担にならないよう細心の注意を払いました。

 
そして、彼女の表情を見ながらしつこくない程度に語り掛けを行います。
 

僕「最近寒くなってきたねぇ。」
 
彼女「 ・・・ 」
 
僕「まあ、そろそろ秋だもんね。じゃあテキストの次のページ解いてみようか。」
 
と、いう風に。
 
返事がなくてもOKです。
僕が話しかけるのをただ聞いてくれたら。少しづつ慣れてくれたら。そんな思いでした。


返事を求めてしつこくなってはいけないと思ったので、返事がなければ僕が補う。そしてさらっと流して次へ進む。
 


これをひたすら繰り返します。
ずーっとジャブを打ち続けるイメージです。
 
このような授業をひたすら続けます。3か月くらいたったある日の授業で彼女が問いかけに対し、かすかに首を振ってくれるようになります。
 


これはめちゃくちゃ大きな変化です。これまではリアクションがほとんどなく、問いかけをしてもずっと固まったままでした。
 


それがかすかではありますが意思表示をしてくれるようになったのです。
 


授業が終わって、うれしさのあまりすぐ教室長に報告に行ったのを覚えています。笑
 
 
それからさらに2、3か月後、僕の質問に声を出して答えてくれるようになります。
 


声は聞こえるか聞こえないかの大きさですし、「はい。」か「いいえ。」くらいの言葉ですが……
 
しかし、これは大きな一歩です。ここまで来るのにすでに半年近くかかっています。どれだけ人見知りの生徒でも、普通1か月半くらいでここまでは来れます。
 


自分がやってきたことが報われつつある嬉しさとやりがいを感じました。このあたりから、少しずつ彼女の表情が柔らかくなっていくのが見て取れました。
 


はじめは苦笑いで、いかにもこちらに気を使っているの分かりました。
しかし、次第に硬さが消え、表情が少し明るくなり僕の話を聞く余裕が出てきたようです。
 


初めのころに見せていた、怯えた表情は完全になくなりました。おそらく始めのうちは聞く姿勢をとるだけでも、緊張してしまっていたのではないでしょうか。
 


これは非常にいい兆候だと思い、問いかけ方を変えてみます。
 


これまでは、「はい」か「いいえ」で答えられる質問しかしませんでした。思い切って「いつも友達とはどんなことして遊ぶのー?」と聞いてみました。
 


すると、相変わらず小さい声ではありますが、「近くのイオンに行きます。」と答えが返ってきました。
 
 
この時もやはり嬉しくて、教室長に報告しに行きました。 笑
 


依然9割くらいは僕が補って会話を進めていましたが、初めのころと比べると歴然とした差があります。

 

影響は成績にも出始めます。入塾当初は70点くらいだったテストの点数が、80点を超えるようになってきます。
 


彼女の成績は中の上で、授業態度や宿題の出来を見ている分には当初から全く問題有りませんでした。
 


それでもなかなか成績が上がらなかったのは、個別指導塾のメリットを活かせていなかったからでしょう。

 

 
先生と仲良くなることでモチベーションが上がる。
分からないところを「分かりません。」と言うことで、もう一度丁寧に説明してもらう。
 


このあたりのメリットを受けれるようになると、成績は自然に上がります。まだまだ、どの辺りが分からないか、詳しく説明するところまではいきません。

 

 
しかし、分かるかどうかの意思表示はできるようになり、モチベーションも確実に上がってきているようでした。

 

大きな変化

 

彼女の授業を担当するようになって、ちょうど1年くらいたったある日の授業。挨拶をして着席した彼女が、突然

 

 
「今度部活で大会に出るんですよー」
 


と話し始めました。正直びっくりしました。だいぶ心の距離が近くなっていたと感じていましたが、まさかこちらから話を振るでもなく、自ら部活の話をしてくれるとは!
 


しかも表情を見る限り無理している感じもありません。その表情は完全に仲の良い友達と雑談する中学生の女の子でした。
彼女の中で何か壁のようなものを一気に突破したのでしょう。
 


その瞬間、
ああ、自分がやってきたことが報われたんだな
と感じました。
 
 
 
ここからはほぼ他の生徒たちと同じように接することができるようになりました。毎回授業のたびに話をしてくれるようになりました。

 

 
学力もさらに一段階伸びました。塾に来ること自体が楽しくなってきた様子で、自習スペースで見かけることも増えました。担当教科以外のテストの点数も上がっていきます。

 


個別指導塾の利点をすべて活用しきった典型例のようでした。
 

 

最後の授業

 


結局、1年半くらい彼女の授業を担当しました。そして僕が大学を卒業する直前、最後の授業を迎えます。

 

 
授業はいつも通り進みます。ちょこちょこおしゃべりをしつつ、今年度の復習をしました。
 


ガチガチに緊張し、恐る恐る僕の話を聞いていた女の子は、もうそこにはいません。僕は少し感慨深くなり、泣きそうになります。

 

 
正確には覚えていませんが、授業が終わると僕は、


「いままでありがとう。来年は受験だから頑張るんだよ。先生は就職で遠くに行っちゃうけど、応援してるよ。」


と伝えました。
 


彼女は
「こちらこそありがとうございました。先生の授業が楽しかったです。」
と笑顔で言ってくれました。
 


「ありがとう」という彼女の表情は、屈託のない普通の中学2年生の女の子の笑顔でした。
 


そして、お礼にかわいいくまのクッキーをくれました。手作りでした。
初めのころから考えると、想像できないくらいの変化です。
 


嬉しすぎて、帰って家で号泣したのを覚えています。

 

どうやったら彼女と仲良くなれるか。悩みに悩みぬいた1年半でした。
小さな変化を見逃すまいと、常に真剣でした。
 
そのすべてが報われたようでした。
 
今でも
「怯えながら恐る恐る僕を見ていた初授業の表情」

「最後の授業で見せた屈託のないかわいらしい笑顔」
は強烈に僕の心に残っています。
 
これからも忘れることはないでしょう。
 


彼女が男性恐怖症を克服できたのか、単に僕とだけ、打ち解けることができたのかは分かりません。
 
しかし、いずれにせよ彼女の人生にとって、非常に大きな意味を持つ授業になったのではないでしょうか。
 
もちろん僕にとっても、です。
 


今では彼女も成人しているはずです。彼女が今、どこで何をしているかは分かりませんが、この時の経験を胸に、一生懸命生きてくれていたらいいなと思う今日ころ頃です。
 
 
 
おしまい